歓声と安堵のため息が重なると、被験者達も肩の力を抜いた。

緊張のあまり、顔色の悪くなっていた中央の女性も身体に掛かっていた余計な力を抜き、ここで初めて

瞼の力を抜いた。おそらく、実験が始まって初めて……。

安堵の表情で周囲を見回した彼女の表情を見ていた者はおそらく居なかったと思われる。

少なくとも余月の位置からでは窺い知る事が出来なかった。そして、他の者はもう彼女を見ては居なかった。

多くの者達に囲まれて、だが、誰も振り向かぬその場所で、彼女の表情は凍り付いた。

その時、彼女の脈拍と脳波を計っていた研究員が不審そうにデータから顔を上げ、彼女の方に目を移した。

歓声の中で、微妙な表情をしていた超能力者達のうちの一人がその研究員の動きに気が付いた。

そして、その視線の行方を追って目に入った“彼女”は実験が始まる前よりもひどい顔色で、そこに座っていた。

緊張のあまり、気分が悪くなったのだろう、と彼は判断した。

立ち上がり、彼女に近づこうとした彼を見て余月ははじかれた様に立ち上がった。

「近づいてはダメだ!」

と叫んだ声は、しかし更に大きな声でかき消された。

絶叫、であった。“彼女”が放った物であった。

近づいてくる彼から身を翻そうとした彼女はさらに、後ろにいた人物を見て動揺をした。

人の居ない所へ逃げようとするかの様であった。

だが、もともと彼女は部屋の中央で周囲を囲まれていたのである。逃げようがなかった。

椅子から転げ落ちた彼女はそのまま崩れ落ち、その場で再び絶叫をあげた。

 データ集積室でも騒ぎが起こっていた。記録者はみな、自分の担当しているデータの異常を目にしていた。

幾人かの研究員が実験室に駆け込み彼女を助け起こそうとした。

けれど彼女は顔中に恐怖を張り付かせ、彼らとの接触を拒んだ。恐怖の為か、力の抜けきった身体を

それでも必死に動かし、部屋中を逃げ惑ったのである。

研究所中がパニックになろうとしていた。

「本体スイッチを切れ!!」

その時、データ集積室の一角から声が上がった。

研究員の一人が気付き件の「妨害装置」の電源が落とされた。

それと同時に彼女の身体の力が抜けその場に崩れ落ちる。気を、失ってしまった様であった。

機械が彼女に何らかの悪影響を与えていたのだと研究所、全ての者達が知る事となった。

マックス博士は蒼白となって居た。

その傍らで、先程の声で指示が飛ぶ。

「彼女を医務室へ。それ以外の者はここへ残り待機。」

その声で見物人のうちに混ざっていた医務局の人間が彼女を運び出した。

「他の者も元の場所に戻る様に。実験に戻る。」

声の主がそう言いながら、実験室に入ってきた。

余月であった。




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