そして、翌日早々に連絡をしてきたマックス博士に、渋々承諾の返事をし、更に2週間後余月は

研究所へと向かったのである。やるからには精一杯が余月の信条であった。

マックス博士が嬉々として迎え入れたのは言うまでもない。




 およそ、11ヶ月の月日が流れ、研究所は沸き返っていた。

所員は口々に奇跡を叫んだ。その気持ちは理解できる。始めの試算では3年から5年掛かると

言われていた完成に、僅か11ヶ月。それで日の目を見ようとしているのだ。

本来は数年はかかると言われていた“精神感応”の構造についての調査に僅か3ヶ月。

これは余月が学生の頃作った“精神感応増幅装置“作成の為のレポートが役に立った。

(弟たちに最低などと言われたが、件の装置はほぼ機能する物ではあったのだ。)

そして試作品1号の完成まで更に4ヶ月。この時点では機能としては完全と思われる物が出来てはいた。

しかし実用化するには多くの問題を抱えていた。なんと言ってもその大きさと外見……不安ではないか。

頭部をきっちりと覆われてしまう物は。目は見えない、耳も良く聞こえない、自分の声は中で反響すると

いうのであればたとえ実用化された所で、使用する度胸が据わった者は居ない。

そういう訳で研究所は試作品をよりコンパクトにすることを目的に動き出し2ヶ月。推敲をし更にシンプルで

軽い物を目指し2ヶ月で、昨夜試作品の何号目かが完成したのであった。




 この頃、余月は既に診療所に帰っていた。

事実上、試作品の1号までは研究主任とも言うべき立場にいたのだが出来た作品のコンパクト化ともなると

余月の知識では手に余った。さすがに専門外であろうと見切りを付けた余月は、自分から申し出てさっさと

本業に戻っていたのだ。

それがまあ、昨日というか今朝と言おうか、未明の電話で起こされ試作品完成の報を受けたのであった。

流石に徹夜続きで外界の時間の流れについて考慮する余裕のない科学者に、しかし余月は怒る気には

なれなかった。科学者達が完成品と信じている試作品の実験が始まる時間を聞き出すと即座に

家を飛び出したのだ。

「ああ、六陽先生。良い所へ。これから実験に入るのです。おいでください。」

等と寝不足の顔で言うマックス博士。余月を呼び出す電話が行った事を判っていない辺りに研究所の

混乱ぶりが見て取れる。

「本当に六陽先生にはお世話になりました。試作品完成までは任せっきりの様な物でしたし……」

「はあ……」

すっかり上機嫌のマックス博士や、研究員の舞い上がり方に余月はすっかり押されてしまっている。

不思議だ。誰もが研究の完成のみを信じている。余月にふっと不安がよぎり、それを口に出さずには「

居られなくなった。

「博士は、成功しているとお思いですか?」

だが、やはり予想通りきょとんとした顔で返される。

「……? していないはずは、ないじゃありませんか。1号は機能的には完璧だったんですよ?今回は

同じ機能の物が形を変えるだけ。何の心配があるって言うんですか。心配ご無用。大丈夫ですって。」

話をしている内にごった返した廊下に出る。実験室が近いのだ。

「マックス博士!あ、六陽先生も。早くおいで下さい。そろそろ準備が整います。」

人混みの中から声が掛かった。わらわらと人混みが動き実験室までの道が出来上がった。





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