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「何が言いたいんだ?」

そう言い返した所で上手はやはり朱明である。

「決まっているじゃないか、兄貴に“協調性”という物を要求している事に関してだよ。そもそも、知ってるか?

“協調性”の意味を?」

更に2分間の沈黙があった。いや、言葉の意味位、余月が知らないはずはない。だが『知っている』と言った所で

『知っていても使えなければ意味がない。』と言われるだろうことも判っているのだ。なんと言っても兄弟である、

弟の性格位は判っている。ただ、だからといって反撃が出来るかというと出来る、と言いきれない自分を余月は

嫌という程判っているのだ。

故に事態は膠着する。延々と続きそうな陰険漫才に周囲があきれて助け船がでる事となった。

「ちょっと、二人ともいい加減にしてね。私の入れたお茶を冷まして無駄にする気?」

……助け船とは言えない様な気がするが、これで事態は動く。『女を怒らせると怖い』と言うが目の前にいる

容姿だけは特上の妹は、怒らせないでも怖い様な気がする。何せ、先程腹に入ったサーベルウルフを

一人で解体できる腕を持っている。彼女の性格からして、機械は使っていないはずだ。

「…………」

二人はお茶に救いを求めてみた。物は冷たく入れた紅茶。貴重品だ。……どうでも良いがアイスティがどう

冷めるというのだ。あれは温もるとは言わないだろうか?だが、清和に逆らう気は毛頭ない。

「……で?」

話を切り進めるのは当然朱明である。結局、兄をからかう楽しみを止める気などさらさら無いのだろう。

「何の研究だって?」

「………」

無言の余月に心の中でにやりと笑った朱明である。言いにくい事があるらしい。

「……ほれ、言ってみ?」

「……対超能力者用のな、精神感応妨害装置……」

……その後の地球で起こった人類の顕著な変化の一つとして、超能力を持つ者の増加があげられる。

それは大きな力を持った者の増加ではなく些細な能力を持つ者の増加として現れた物だが

些細だからかまわない、とは思わない者がやはりいる。特に「上」の人間、この場合国家という形は壊滅しているので

科学者を束ねる者達の事を言う、はその者達による機密の漏洩を恐れていた。科学者達の研究結果が必ずしも

世の中の為にならない物があり、それをもみ消してきた結果なのだろうと言われるがそれは確かではない。

寒い空気が流れる中、今まで無言を通していた貴之が思い出したかの様に口を開く。

「そういえば、確か昔、先生も似た様な玩具を遊びで作ってませんでしたっけ?」

「若先生、兄さんにそのネタは致命傷に近い衝撃を与えるわよ?」

「そうそう、あれは最低だった。精神感応増幅器……だったっけか?あのときは確か“もう第六感に関する研究は

しない”って言ってなかったか?」

「……だから辞退したんだろうが……」

既に余月は立ち直りようがない程落ち込みソファーに沈み込んでいる。

「あら、でも今日来たのってマックス博士でしょう?あの人って有名よ?“根性の人”で。」

「あと、今時の科学者の割に柔軟性があって、すぐに違う方向でのアピールが出来る人だとも聞きました。」

「だとさ、ご愁傷様。」

……無敵ではないかその博士といい、この3人といい余月の苦手なタイプの最たる物であろう。

つい、世をはかなんでしまった余月を飛び上がらせる事態はこのあと起こった。





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