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 骨とちぎれた組織をつないで、ギプス型の培養液タンクをつなぐ。

ここまでは人間の治癒能力を超えた治療だが、ここから後は人間の治癒能力に任せるしかない。

と言う所までの治療を終えると流石に5時間が過ぎていた。

「腹減った〜!!」

とは、患者である朱明の台詞。

「この手術の後だ当然だ、と言うべきか、良く食う気になるなと言うべきか……。」

あきれている余月の気持ちもわからないではない。

「言っておくが、3日は動かすなよ!!数百年前には治らなかった怪我なんだぞ!」

「と言うより動きません。」

当たり前である。本来は痛かったはずだが、そのような様子さえ見せない。治らなかったら、と言う

不安がない分、切迫する事もなかったのだろうか?

「それで?刃物の傷じゃないな?どこで、どうした?」

「家の前でなぁ……うちって、サーベルウルフ飼っていたっけか?」

いつの頃からか、出るのだ。人の生活圏にそういったキメラが。

混乱の後か、前かは判らないが怪しい研究所での実験生物が『漏れた』のではないかと言われていた。

「……んなもん、誰が世話をするんだ。判った区長には連絡しておく。で、そのサーベルウルフは、

どこに?」

「仕留めて、台所に放り込んでおいた。」

「……じゃ、今日はキメラのソテーか焼き肉かな。」

あまりにあっけらかんと言われた朱明の言葉に流石の余月も力が抜けた様子である。

腹が減っているなら食わせねば、怪我も治る物ではないだろう。ゆえに余月の次の言葉はこうなる。

「じゃ、飯にしてもらおうか。」




「いかがでしたか?サーベルウルフ。」

と、言う妹の言葉に

「おいしゅうございました。」

と、手を合わせる。実際においしかったし、食事に対する感謝もあるが、何より生活の全てを仕切っている

妹、清和(さやか)には逆らいたくない。一見日本人形めいた大人しげな様子に見える妹だが

金と食を握った者を怒らせる恐怖をこの家の家族は知っている。

「で、兄貴。今日来てたのあの、マックス博士だろ?何しに来たんだ?」

清和が食後のお茶を配り終えるのを待ち、朱明が口を開く。

嫌な顔をする、余月だがきっと話を変えてはくれないだろう。

「今度の研究スタッフに来いと言ってきた。」

「誰に?」

聞かないでも判るようなことをわざと聞き返すのは嫌がらせなのかも知れない。

「俺の事、だろうな。」

「………」

沈黙が重い。この間たっぷり60秒。同じ食卓についている清和が嫌な顔をし、病院の手伝いをしてくれている

従兄弟の貴之が酸欠状態になる。

「……物好きな人なんだな……。」

しみじみと言われた朱明の言葉につい、言われた余月が頷いてしまった。そして気付く。

言われた当人が納得して良い話題ではないはずだ。清和などは後ろで笑いをこらえている。

余月も一言ぐらい言い返さないと格好が付かない様な気がしたらしい。




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