余月がサークレットを手に席に着くと諦めた様に能力者達も席に着いた。
青ざめた表情の彼らに余月が声をかける。
「あのような事の後ですが、集中できますか?」
「……どうでしょうか?また何かあったらと考えない事はありません。ただ、先程の実験で
機械そのものは機能している事が判っているので……我々の精神状態より、六陽先生の方が心配です。」
実験員が余月に分析用の機器を付けに来る。その様子を見守りながら余月は笑った。
「大丈夫ですよ。もう腹は据わってますから。それに何か起きるかも知れない事が判っている分、
逆に気が楽です。」
「そう……ですか。」
能力者達ももう止める事は出来ないと悟ったらしい。静かに精神集中に入った。
実験機器を取り付け終わった実験員が、部屋を出て行く。それを見送りながら、余月は小さくつぶやいた。
「まあ、何が起こるかは大体判っているしな……」
そして、その日から2ヶ月が経ち、結局、“妨害装置”の研究は中止になったという噂が流れた。
実験はその後数度行われ、何人かの被験者が始めの女性と同じ反応をしたのだという。そして、その被験者達の
多くが実験により原因不明のストレスを受け、現在もその緩和の為の治療を受けているという。
原因が不明な理由、それは被験者達のショックが大きくその衝撃について語る事が出来ない状況にある為である。
唯一、無事にすんだ被験者はただ一人。
余月だけであった。
そんな余月に朱明は言った。
「兄貴、成功が望めないと判ったんなら、何故中止しろと進言できなかったんだよ。言っちゃ何だけどな、
始めの一人はともかく後からの犠牲者については止める事が出来たはずだろう?」
「………。」
返す言葉もない。だが余月とて、成功は望めないのだ、と。
この機器は正常に動く事によって危険な機械となるのだ、と説得はしたのだ。
ただ、その説明が難しかった。
何事にも、やらなければ判らない事、見てみなければ理解できない事という物がある。
今回の実験により被験者が『見た』物がそれに値した。
それを、研究所の者達は理解できなかったのだ。
結果、「何か機械の異常があったらしい」と判断され研究、実験が繰り返される事となった。
余月とて、その異常が何故起こったのかは判っていない。
ただ、余月はおおよその仮定を導き出していた。