管理局の一室では苦渋のため息が吐かれていた。
重厚な部屋の作りはその人物の組織の中での立場を表していた。
「傍受した通信は『生きている』と、言ったか…」
部屋の主は窓の外に視線を泳がせた。何もかもが思うようには動かなかった。
何か強い力が彼らの邪魔をしているかのようであった。
「はい、まだ未確認の情報ですが。」
「逃げ得るとすれば消去の瞬間以外無いが……。」
次元消去の瞬間まで歪みのトレースは続けていたのだ。小さな歪みも見逃すような事の無いよう。
もし見逃すとすれば、大きな歪みが発生する消去の瞬間。
だが、100人がかりで起こす『消去』の為の大きな歪みに、普通ならば、いや普通よりも
大きな能力を持つものでも、はたして逆らえるものであろうか?
更に今回は用心に用心を重ねて次元を封鎖する為の要員も倍に増やしていたのである。
封鎖された中で起きる大渦に、逆らえる者の存在などあって良いのであろうか。
いや、元々相手は異端であったのだ。彼らの常識の範囲内では測れないのかも知れない。
「通信を聞きつけ多くの者達が騒ぎ始めています。あちらもどうにかしなければ……」
冷静な声で報告を続ける係官の声に我に返る。
「そちらはもう手を打ってある。こちらはとにかく大がかりに探索を始めてくれ。それにより
混乱も攪乱できるかもしれんしな。そしてなによりも、この様な事態になったら、どこよりも早く
『聖獣』の手がかりをつかみその身柄を確保する事を考えねば。」
いくら特殊な能力を持つとは言え、『聖獣』はまだ事の真相がわかってはいないだろう。
生きているならば早々にその能力を抑えなければならない。
窓の外の空に視線を泳がせ考えを巡らせる主を後に、係官は静かに部屋を出て行った。
この状況下に出来る事は数える程しかないのは判っているのだ。
ただ、やはり何かゆがんだ力が物事を悪い方向へ流そうとしている気配がした。
早まったのであろうかと、主はつぶやいた。だが今はもうそのような事を論じている場合ではない
事も確かであった。
このままでは反目する派閥により今回の真相が暴かれる事も覚悟しなければ。
そして、その派閥を封じる方法をも考えなければなるまい。
彼は、デスクに向かいあらゆる可能性に対し対処するべく覚悟を決める。
この世は思い通りにならない事が多すぎる。
その国の王は何の決定権も持っていなかった。
無能であった訳ではなく、傀儡であろうとした訳でもなかった。
彼を傀儡として扱っている大臣達はただひたすら何も変化させない政治を行おうとしていた。
先代の王の御代が豊かであり、その治世は穏やかであった。だがそれはたいした理由ではない。
大臣達はこの王の御代には何も変えてはいけないと、そう信じていたのだ。
日々は穏やかではあったが、時の流れに反して変化無く生きていこうとするには色々なひずみが
現れていた。
だが、誰もそれを認めようとはしなかった。いや、気付かないふりをしていたのかも知れない。