だが、本来ならばその時点で事が大きくなる事はなかった筈であった。
いつもの通り、管理局には消失した次元のコードを問い合わせる者はなく、いつものように
また、知らない次元が一つ消えたのだ、と言うため息だけが次元旅行者の間に流れて
忘れられる事となるはずであった。
そう、今回閉じられた次元は元々人々の行き来が禁じられ、交信や追跡の手すら及ばぬ特別区域で
あったから、なお管理局は油断していたのだ。
しかし、ここで彼らの予想だにしない所から情報が漏れる事となった。
雑音に混ざり、それでもその通信はこう告げていた。
『聖獣の住まわるナーデュルカ。消滅せり。彼の聖獣の行方は不明なり。
管理局による踏査の気配無く、彼の聖獣を助くる動き無し。』
それは入るはずのない自由民族達の通信網。
それを、多次元にいた管理局側の次元旅行者が拾ってしまった。
信じられない内容を聞いたその人物は、まず管理局に問い合わせた。
だが、返答はなかった。代わりに管理局から即座に人が来た。
それきりその人物の行方は知れない。連れ去られたのだ、と言う者もある。
その人物の友人達により異変は管理局内に持ち込まれた。
そして管理局内部で何か起こっているらしいと、警告が流れた。
管理局の流す情報に不信感が募り、人々は情報を外に求める事となった。
そして、ついに管理局の中から彼の通信網を拾い上げる者が現れる。
彼の通信は未だ告げていた。
『聖獣の住まわるナーデュルカ。消滅せり。彼の聖獣の行方は不明なり。
管理局による踏査の気配無く、彼の聖獣を助くる動き無し。また、管理局はこの事実を
隠蔽する事に必死。なにやら不審なる動き在り。』
そうして更にこう告げた。
『自由旅行者のうち彼の聖獣と出会った者在り。次元封鎖、消去後のことと思われ現在確認中。』
オープンになっていたその通信網に、多くの次元旅行者がアクセスを開始した。
次元旅行者達は管理局に対し不信を募らせ、自由民族に情報を求め始めたのだ。
『聖獣』の消失という事件が二つの勢力を再び近づけようとしていた。
そしてそれは管理局の予想を遙かに超えた騒ぎに発展する事となる。
彼らの予想以上に『聖獣』は次元旅行者の心の支えになっていたのだ。