幻獣2 



ずぶり、と森の奥で何かが生まれる気配がした。

誰も気付くはずのないその気配に、その世界の王だけが気が付いた。

ずぶり、と嫌な気配が彼の恐怖を呼び起こし、武器を携えて王は森への道を急いだのだ。

生まれ出でた物は森の奥の聖なる洞窟にいた。

その姿を見て王はただ、微笑んだ。

武器を使う事はなかった。ただ、王は微笑むのみであった。

その微笑みに、狂気が含まれていたとしてもそれに気付く者は誰も居なかった。

そう、誰も。

世界の変動は近かった。




 自由民族と呼ばれるその国家では、その日民族をあげての混乱が巻き起こっていた。

それはここにいる人々が覚えている限り初めての混乱であった。

もしかしたら、この民族が結束してから初めてであったかも知れない。

彼らはいち早く事実を知ろうと統治者である長老の詰める庁舎へ詰め掛けた。

彼らはただ不安げに、閉ざされた扉の向こうから近づいてくる筈の足音を息をさえ潜めて

待ち続けていた。

先程、一大事の報を受けて集まった民衆にそのドアの向こうから現れた者はこう告げた。

『3時間程前にコードspナーデュルカの消去が確認された。管理局がこの空間に“幻獣”を

閉じこめていたのは知っての通り。だが消去にあたって、彼らが“幻獣”に何らかの干渉、

或いは連絡を行ったと言う事実は確認できない。

空間は消去の瞬間まで堅く封印されていた事だけが確認されている。』

と。そして、彼は『もしも』を信じ、総力を挙げて幻獣の探索を行う旨を告げた。

そして詰め掛けた人々の中から探索能力の高い者達を集め再び扉の中に消えたのだ。

それから人々はその場から動きもせず、祈るように吉報のみを待ち続けているのである。

いつまでも増え続けるその人の輪は、ただ息をひそめて扉を見つめ続けているばかりであった。

その扉が開くには今少しの時が必要となる。




 そして、こちらは管理局側。いわゆる一般の次元旅行者が住まう次元である。

こちらでも大きな混乱が起こっていた。

まず、第一の混乱はナーデュルカの消去について一般の次元旅行者達が何も知らされなかった

事から引き起こされた。

本来、次元の消失には大きなエネルギーを必要とされる。機械でになう事の出来ぬその能力は

管理局に詰める管理官達だけでは担いきれる物ではない。

多くの場合、管理官という肩書きのない一般の次元旅行者達の能力によって補充される事となる。

依頼を受け、力を貸した次元旅行者達には、その力を行使した次元のコードナンバーを

知る権利が与えられる。殆どの場合、罪悪感等から逃れる為にそれを知ろうとする者は居ないが。

だが、今回に限ってはその権利は誰にも与えられる事はなかった。




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