6ページ

ああ、始めに見た表情だ、と青年が思ったその時だった。

突風が二人の間を吹き抜けた。

爆風と言っても過言ではない程の風が、彼の髪を吹き上げた。

ばらり、と広がった黒髪は、何故か3メートルは離れていたはずの青年の視界をも奪った。

……だがその風は一瞬の後、ぱたりと止んだ。

青年の目の前で急速に情景が変わっていった。

突如、視界を覆った純白は、しかしあまりに純粋すぎる色であった為視覚が追いつかず

色々な色がハレーションを起こして見えた。

その中心を凝視するのは難かったが、そこにいるはずの人物の気配は幽かに感じ取れた。

その眩しい純白のなかで、彼は変化を遂げようとしていたのだ。

青年が、現れる前に一度中断した、その変化を……

やがて、その姿が現れた時青年は息をする事も適わなかった。

彼の漆黒の髪は元の長さとは比較にならない程長くなっていた。

地表に付くかとも思えるその髪は、だが膝の高さにたゆたい、広がっていた。

そして、その背に白く揺れる純白は大きな羽の形を取り、白馬と化した半身とともに

この世ならざる物への変化を示していた。

「……『聖獣』イオ=グラディス……」

青年はつぶやいていた。

それは、伝え聞く『次元旅行者』の象徴と同じ姿であった。

だが、何故だろう。『聖獣』と言うにはどこかに禍々しい物を秘めていた。

かといって、『魔獣』と言うには清浄な気を放っていたのだ。

しかしそれは確かに唯一無二の物であった。

「封印は解けたり。」

先程までの彼とは違う、空間に響く声。

「……さっきまでの、あいつはどこへ行ったんだ?」

青年は圧倒されながらも、そう、つぶやいていた。

ゆっくりと、『聖獣』は振り返る。

先程までの面影はなかった。

「イオは人のなかで生きる為に作られた『殻』の一つ。封印されてからの記憶と人格を司る。

これより徐々に我と統合され一つに戻るであろう。……お前はいったい誰だ?」

「……誰って……」

「……そうだな、名前などはよい。……我の復活に立ち会った『次元旅行者』よ。長に伝えよ。

『聖獣』は消滅する事はないと。いずれまみえる時を楽しみにしていると。」

「やはり、『管理』の仕業なのか?」

「・・ほう、お前は『自由民』か。では伝えるがいい。『管理』は『聖獣』を抹殺しようとしたのだ、

と。『聖獣』は『管理』に対して能力を行使する事となる、と。」

にやり、と『聖獣』は嗤った。

青年はただ、圧倒されていた。更に『聖獣』は何かを伝えようと口を開いた。

だがその時再び風が吹き始めた。

それは『聖獣』が現れた時と同じ、突風。

青年は理解していた。『聖獣』がイオという人格と争っているのだと。

遮られた視界のなか、二つの人格が覇を争っているのだけが感じ取れた。

やがて、閃光。

そして静寂が訪れた。





      戻る         小説トップへ         トップへ         次へ