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ああ、始めに見た表情だ、と青年が思ったその時だった。
突風が二人の間を吹き抜けた。
爆風と言っても過言ではない程の風が、彼の髪を吹き上げた。
ばらり、と広がった黒髪は、何故か3メートルは離れていたはずの青年の視界をも奪った。
……だがその風は一瞬の後、ぱたりと止んだ。
青年の目の前で急速に情景が変わっていった。
突如、視界を覆った純白は、しかしあまりに純粋すぎる色であった為視覚が追いつかず
色々な色がハレーションを起こして見えた。
その中心を凝視するのは難かったが、そこにいるはずの人物の気配は幽かに感じ取れた。
その眩しい純白のなかで、彼は変化を遂げようとしていたのだ。
青年が、現れる前に一度中断した、その変化を……
やがて、その姿が現れた時青年は息をする事も適わなかった。
彼の漆黒の髪は元の長さとは比較にならない程長くなっていた。
地表に付くかとも思えるその髪は、だが膝の高さにたゆたい、広がっていた。
そして、その背に白く揺れる純白は大きな羽の形を取り、白馬と化した半身とともに
この世ならざる物への変化を示していた。
「……『聖獣』イオ=グラディス……」
青年はつぶやいていた。
それは、伝え聞く『次元旅行者』の象徴と同じ姿であった。
だが、何故だろう。『聖獣』と言うにはどこかに禍々しい物を秘めていた。
かといって、『魔獣』と言うには清浄な気を放っていたのだ。
しかしそれは確かに唯一無二の物であった。
「封印は解けたり。」
先程までの彼とは違う、空間に響く声。
「……さっきまでの、あいつはどこへ行ったんだ?」
青年は圧倒されながらも、そう、つぶやいていた。
ゆっくりと、『聖獣』は振り返る。
先程までの面影はなかった。
「イオは人のなかで生きる為に作られた『殻』の一つ。封印されてからの記憶と人格を司る。
これより徐々に我と統合され一つに戻るであろう。……お前はいったい誰だ?」
「……誰って……」
「……そうだな、名前などはよい。……我の復活に立ち会った『次元旅行者』よ。長に伝えよ。
『聖獣』は消滅する事はないと。いずれまみえる時を楽しみにしていると。」
「やはり、『管理』の仕業なのか?」
「・・ほう、お前は『自由民』か。では伝えるがいい。『管理』は『聖獣』を抹殺しようとしたのだ、
と。『聖獣』は『管理』に対して能力を行使する事となる、と。」
にやり、と『聖獣』は嗤った。
青年はただ、圧倒されていた。更に『聖獣』は何かを伝えようと口を開いた。
だがその時再び風が吹き始めた。
それは『聖獣』が現れた時と同じ、突風。
青年は理解していた。『聖獣』がイオという人格と争っているのだと。
遮られた視界のなか、二つの人格が覇を争っているのだけが感じ取れた。
やがて、閃光。
そして静寂が訪れた。