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気が付くとそこには、散りかけた桜と静かな公園があるばかり。
まるで先程までの事などなかったかの様に静かに風が行き過ぎる。
人々は寝静まった時間。桜の舞い散る音さえ聞こえてきそうである。
静かな春の宵がそこにあった。
夢で……あったのだろうか。
春の宵は人を酔わせるのだという。ではその邪気に見せられた幻であったのだろうか。
呆然とする青年の手元から小さな発信音が響いた。
思いの外大きく響いたその音で、青年は我に返る。
緊急回線であったのか、突然開いたホログラフには切迫した表情の男が映し出された。
「ディン、どこにいる?緊急招集が掛かった。戻れ。」
「どうした?」
「非常事態だ、回線では話せない。」
動揺したその表情に、ディンと呼ばれた青年は今まで目前にあった不思議な光景を思い出す。
「……『聖獣』か?」
「……知っていたのか。そうだ。『聖獣』が消えた。いや、次元ごと消された。突然の事だ。
今、手を尽くし行方を捜してはいるが……。」
その表情は絶望を示していた。
「……会ったぞ。」
「え……っ?」
「今、俺の居るこの場所の歪みをトレースするよう頼んでくれ。ほんの数分前まで俺がここで
話をしていた。その相手が、多分『聖獣』……イオ=グラディス。」
ホログラフのなかの光景が慌ただしく動き出す。その姿を見ながらディンは確信を深めていた。
先程までの幻の様な出来事を示す痕跡は何もない。もしかして、歪みすらも残っていないのかも
しれない。だが、それは確かにあった。
誰聞くともなく、ディンはつぶやく。
「今、ここで「聖獣」に会っていたんだ。」
幻獣vol,1 終