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そして『管理』は彼を象徴としてだけではなく次代の長として扱い始めた。
まだ、言葉も話せぬ半獣の子供に、長や長老でさえも礼を尽くし、考え得る限りの
教育を施したのだ。
彼は存在する事だけで彼らの『救い』となった。それを長に据えて彼ら民族を『救い』
一つの強固な絆で結びたかったのであろう。
そして『自由民』は彼らから離れようとした。
『管理』により、存在を支えられながら義務を果たす事のない者達、という立場になってしまった
彼らは同じ空間にその身を置く事が堪えがたい物となってしまったのだ。『管理』のまだ力の
及ばぬ空間に転移を続けいつしか『管理』との公の交流は絶えた。
お互いの存在の確認は民間の情報網のみが残され、公式な通信は行われる事が無くなった
そんな頃、『管理』を、いや『次元旅行者』を驚愕させる事件が起きる。
それは、『聖獣』イオ=グラディスの4歳の誕生日、公式な場に初めて現れる事の決まった
お披露目の日。
『聖獣』イオの成長はその英才教育の成果もあってか齢3つにして驚異的な理解力を示し、
次元を操る能力も恐るべきレベルを見せつける事となる。
そしてその日、祝いの席に着く前にイオは長老達を集めたのであった。
……その場で、どのような事が起きたかは発表される事はなかった。
しかし、その日一般の『次元旅行者』の前にイオが現れる事はなく、後日『聖獣』イオの
封印が発表される事になった。
数年を経て噂が流れた。『聖獣』は『管理』を否定したのだと。
次代の長と目され、『管理』のありとあらゆる知識を注ぎ込まれた彼は、しかしその驚異的な
理解力により『管理』を否定し、そこからの離脱を請うたのだという。
再教育は出来なかった。そして、自分達の象徴であり免罪符でもある彼を離脱させる事も、
処断する事も出来なかったのだという。
そして、誰よりも大きな可能性と、知識を持った彼はその力を発揮する事の無いよう、
見張り役と、僅かな望みをつないだ再教育係を付けて『ナーデュルカ』という次元に閉じこめ、
その次元には幾重にも封印が施される事となったのだ。
「そう。『聖獣』は消せない。『管理』にとってそれは自らを否定する事。だが『聖獣』を生かして
置くのも危険な事。それも自らを否定するという事。」
彼は再び視線を泳がせる。十三夜の月を見上げつぶやくように言葉をつづる。
「そして『管理』は何かに焦り、決断を早めた。……組織のなかで何かが崩れだしたのかも
知れません。」
ふっと、青年に不安がよぎった。何かがおかしい、と。
先程から彼の輪郭がにじむのは気のせいだろうか?
何か、もう一つの気が満ちてきているようなのは何故だろうか?
青年の口からこぼれたのは呻きにも似た言葉。
「お前、何者だ?」
ふわり、と不思議そうに彼の視線が動いた。