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 青年は『自由民族』の者であった。しかし、青年には区別が付かなかった。

彼がどちらに属する者か。

「『消した』が正解でしょうね。」

そうつぶやきながら虚空を見つめる彼は『管理局』の者とは思えなかった。

かといって『自由民族』の者とも思えなかった。

両者には微妙な違いがあった。

同じ種でありながら『管理局』の者はその重責の為か感情を表に出す事を止め『自由民族』の

者は感情を隠す事はしない。

そうして、お互い自らの存在を守ってきたのだ。

しかし彼はどちらにも該当しない様な気がした。

「『消された』のはスペシャルナンバーを持つ次元、ナーデュルカ。ご存じですか?」

そんな事を思いながら聞いていた抑揚のない言葉に、しかし青年は驚いたのだ。

スペシャルナンバーを持つという事は当然『管理』する上で重要な拠点であると言う事で

ましてや、『ナーデュルカ』である。

その名を知らない『次元旅行者』はいない。

そこは特別に封鎖された場所。

それは彼らにとって、信仰であり、救いであり、また同時に傷でもある聖なる者を

封じた場所。

「まさか……あそこの惑星には確か『聖獣』が……」

初めて、その時初めて彼と目があったのだ、と思う。

悲しい様な、苦しい様な、しかし不確かな事を言っている瞳ではなかったと思う。

だが、信じがたかった。

「……そうだよ、そんな情報はなかった。封印されている場所であるなら……

まして消去された場所であるならば手向けを送る事など不可能なはずだ。大体、『聖獣』

を消す事など……」

……出来るはずはないのだ。




 『次元旅行者』が二つの派閥に分かれた頃からだったろうか、それとももっと前からの

ことであったろうか。

どちらからともなく一つの噂の様な物が流れ始めた。

それが語る事は

『我等の行いが間違いでなければいずれかの時に聖獣が現れる。それは我が民の

一員として降臨する。』

それは『管理』の側には救いとして、『自由民』の側からは皮肉を以て流布された。

どこから流れた物か、どのような目的を持って流された物かは判らぬまま、追いつめられた

者達に対する救いとしてそれは語り継がれた。

彼らはその矛盾を知ったまま、半信半疑で、しかし魂からの祈りとしてただひたすら待った。

 そして、象徴は生まれたのだ。

その誕生は大々的に発表をされた。

『管理』の人々には歓喜の声で、『自由民』からは疑いを持って受け入れられた。

それはお互いの立場からすると無理もない事であったろう。

二つの派閥は、分離してから初めて一つの仕事をする事となる。

それは『聖獣』の誕生に何らかの操作が加わっていないかどうかを確認する事。

答えは『皆無』。その誕生に一切の操作は加えられておらず、不思議な事にDNA上は

我が民と何ら変わりなく、どの宇宙の生物とも違う唯一の『聖獣』であることが確認されたのだ。





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