しかし、博士達に装置を付けてみろ、とも言えなかった。

そんな、事実を突きつけられるのは更に酷な事であろうから。

故にこの実験は実験経過やその技術レポートなどいくら考察しても恐らく、まとめる事は出来ないはずだ。

いつしか、うやむやにするしかなくなる。

そうなれば気の毒ではあるが、この研究所はしばらく「上」からの援助は望めなくなるであろう。

肩を落とすマックス博士の姿が浮かぶようだ。

 ちなみに、何故余月が被験者になった時に冷静で居たかというと、経験があったからである。

前に自力で作った「増幅装置」、その実験の際に不鮮明ではあるが今回の画像に近い物が見えていたのだ。

おそらくではあるが、「増幅」により人からの念を押さえ込み正しい視覚を取り戻す作用が働いたのであろう、と

余月は推測している。

いずれにしても第六感については神秘の分野である。人が、手を出すには危険な分野なのかも知れない。

そういえば、数年前にもそう思いこういった実験には手を出すまいと決めていた余月であった。

そうして、今回もそう思っている。もしかして自分は学習能力がないのかも知れない、そんな悲しい事実に

考え込んでしまった余月に声が掛かる。そういえば家のリビングであった。

「お〜い。兄貴、どこ行っちまった?聞いてるのか?」

揶揄するような朱明の声が聞こえる。

「ああ、ちょっと考え事をしてた。」

不満そうに朱明が口をとがらせる。

六陽家にはそんな、いつも通りの生活が戻っている。余月はもう、こういった実験や、研究には

頭を突っ込むまいと再び強く思っていた。

「所で兄貴、物は相談なんだけどさ。」

にやりと笑って朱明が言い出した。

「それと同じ装置。俺に作ってみてみる気ないか?兄貴の言う所の“人間の本来の姿”っての俺も

見てみたいんだよな。」

「………。」

変な興味が湧いてしまったらしい。もう余月はこの件は忘れたいのに。

流石に貴之が嫌な顔をして朱明の顔を見ている。『物好きなんだから』と呆れているのがわかる表情だ。

同じような顔をして余月が朱明を見ていると、急に真剣な顔が近づいてきた。

そして、小さな声でこういった。

「特にな、清和を見てみたいんだわ。」

それは小さな声であったはずである。少し離れた貴之にさえ聞こえたかどうか。

だが、水音がしていた筈のキッチンからは素晴らしいスピードと的確なコントロールでマグカップが飛んでくる。

そしてそれは見事に朱明の後頭部にクリティカルヒットをして見せた。

思わず、怒鳴り返そうとする朱明に今度は余月と貴之からのクッションが飛んだ。

逆らってはいけない物、逆鱗に触れてはいけない物がこの世には存在する。そんな忠告の代わりに。

奇しくも3人のため息が重なって、リビングに静寂が訪れた。

まずは、当面の間、この家に平穏が訪れたのだ。

それがいつまで続くかと言う問題があるとしても、今は考えまい。

そう。今だけはこの静寂にすがろう。いずれ何かが起こるとしても………







                                                   「mind machine」 完


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