人類が『世界の様子がおかしい』と思い始めたのはどの時期であっただろうか。
そして、その警鐘が大きくなったのは?
その混乱がやってきたのは突然ではなかったが、収束するには更なる時間が掛かった。
だが兎にも角にも人類は混乱期を越えたのだ。
確かに生態系変化、人口減少等のツケは払わされた。
それにしたって“死滅“の二文字に比べ“生存“の二文字は何とも魅力的ではないか。
人獣や変化が歩き回ろうが、生態系変化による気象異常が起きようが世紀末を越え開き直った人類は
強かった。それ程に『その時期』はめちゃくちゃな時期だったと言われればその通りなのだろう。
で、開き直った人類は生き残る為に何をしたか。人類という種の弱さなんざ、あの混乱期に痛い程思い知った。
では人類のセールスポイント、少しでも誇れる物はなんだろう?
『頭脳だ』
では『頭脳』を使って人類が武装し、自衛するにはどうしたら良いのか。
『科学』を発展させる事だ。
……いやはや、いかにも単純な、しかし切実な論理で人類は必死に走り出したのだ。
『生き残るんだ、生きるんだ、科学があれば怖くない』
……本当だろうか……?
その混乱からは随分と時が流れていた。
その家はこの時代にしては大きな町にあった。
その町はかつては都市であった廃墟に人々が肩を寄せ合い作られた物であったので、
荒廃した様子は拭えないものであった。なぜならば、新しく建築をする技術はあったも、周囲の環境を
整えるまでの余裕がないので、建物の作りがよい割には寂れて見えてしまうからだ。
この時期、都市というとほぼそのようなものが多かった。
そして、その家に男達が訪れたのは1年前の事であった。
マックス=ファタールという名の公称一流科学者は、突然その家を訪れた。
それが今回の話の始まり。
一見、肩書き通りの職業には見えない壮年実業家風の訪問者一行は、この家の主に現在行われている
研究への参加を促しに来たのだった。
「今回の研究は我々だけでは手に余る。故に先生のご助力を仰ぎたく思いこうして主幹である
私自らが参ってお願いをしている所存で……」
わざわざ、主幹自らが来たのだぞ、と言うプレッシャーをかけようと言うのであろうか?
だが、憮然とした表情で招かれざる客を迎え入れたこの家の主はその圧力に対し恐れ入る事もなく
ただ、無言を通していた。
いや、通さざるをえなかったのだ。その客のあまりの冗舌さに……
「申し訳ないのですが……」
ようやく、口を挟む事が出来たのは客人がやってきて1時間もしようかという頃であった。
「研究助手と言われましても……」
「いや、助手ではなく客員として丁重に扱わせて頂く用意があります。」
『だから?』と聞き返す事が出来ればどんなに楽だろう、と思うのは小市民的発想だろうか?
この時代“結果を残した科学者”は優遇される。そして、“結果を残した科学者“は研究室に
籠もり必然的に人と会う機会が減る。ゆえに人の言う事を“聞けない”者達が増えていく。
と言う悪循環にはまりこんだ典型的な人物なのだろうか?主は背を正した。頑張って話をしないと
流されてしまう。
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